青空文庫アーカイブ

夏のよろこび
若山牧水

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)群青色《ぐんじやういろ》
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 底深い群青色《ぐんじやういろ》の、表ほのかに燻《いぶ》りて弓形に張り渡したる眞晝の空、其處には力の滿ち極まつた靜寂《しじま》の光輝《かがやき》があり、悲哀《かなしみ》がある。

 朝燒雲、空のはたてに低く細くたなびきて、かすけき色に染まりたる、野に出でて見よ、滴る露の中に瓜の花と蜂の群とが無數に喜び躍つてゐる。

 向日葵《ひまはり》の花、磨き立てた銅盥《かなだらひ》の輝きを持つて、によつきりと光と熱との中に咲いてゐる。歩み移る太陽の方にかすかに面を傾くるといふにもこの花のあはれさが感ぜられる。づばぬけて大きいだけになほ。

 夜。空氣も濡れ、燈火も濡れ輝いてゐる。ほのかに汗ばむアイスクリームの湯氣。

 晝寢。したゝかに吸ひ太りたる蚊のよちよちとまひゆける下、疊よ、氷の如く冷かなれ。



底本:「若山牧水全集第七巻」雄鶏社
   1958(昭和33)年11月30日初版1刷
入力:柴 武志
校正:浅原庸子
2001年5月25日公開
2001年6月30日修正
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