青空文庫アーカイブ

鍵から抜《ぬ》け出《だ》した女
海野十三

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)黄風島《こうふうとう》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一本|小楊子《こようじ》一本

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定、誤記の訂正
   (数字は、底本のページと行数)
(例)狂喜乱舞[#「狂喜乱舞」底本では「狂気乱舞」、410-上段-3]
-------------------------------------------------------

 黄風島《こうふうとう》にて

 今夜こそ、かねて計画していたとおり、僕はこの恐ろしい精神病院を脱走しようと決心した。――
 そもそも僕は、どうしてこの島の精神病院などに入れられるようなことになったのか、その訳を知らなかった。第一僕は、こんな島なんかに来たくなかったのだ。母親のお鳥に連れられ、内地をおさらばしてこの北国の黄風島《こうふうとう》に移住してきたのだが、なぜ母親があの気持のいい内地を去るような気持になったのか腑《ふ》に落ちない。まさか母親お鳥は、僕をこの精神病院に入れるために、わざわざ内地を捨てて黄風島に来たわけでもあるまいと思うが……。
 とにかくこれは夢ではないのだ。僕はいまたしかに精神病院の一室に監禁せられているのだ。入口の扉はこっちからはどうしても開かなかったし、また窓という窓には厳重な鉄格子が嵌《はま》っていた。そしてこの不潔な小室には、少年が二人まで同室しているのだった。
 母親お鳥が今まで一度も僕をこんなところに入れると云ったことがない。母親と二人でこの島へ着いたときは、かねて内地で親しくしていた森虎造というおじさんが迎えに出てくれた。森おじさんは僕たちに向い、さぞお前たちは土地不案内で困るだろうし、また島にいま適当な家も空いていないことだから、とりあえず自分の邸にくるがいい。室を二つ三つ明けてあげるから当分それへ入っていて、ゆるゆる空家を探すのがいいだろうと親切に云ってくれた。それで僕たちは、島の斜面に建っている豪勢な洋館へ案内され、そこで三室ほど貸しあたえられた。なんでも森おじさんは、内地にいた頃とは違って、たいへん成功し、この島の中では飛ぶ鳥落とす勢力があり、何でもおじさんの思うとおりになるそうだ。
 一と月あまり、それでも物珍らしく楽しい日を送ったが、或る日のこと、母親は下町へ行って、僕一人で留守番をしていたことがあった。僕は留守番というのがたいへん好きだった。実はすこし悪い病であるが、留守をしながら、いつもは手をつけては怒られるような戸棚の中や梱《こうり》の底などをソッと明けてみるのが非常に楽しみだったのである。その日も留守を幸い、こっそり僕等の部屋を抜けだし、森おじさんの書斎へ忍びこんで、散々に秘密の楽しみを味わった後、そこにあった安楽椅子に豪然と凭《もた》れて、おじさん愛用の葉巻をプカプカやっていた。すると誰もいないと思っていた扉が急に開いて、その向うから突然四五人の詰襟服《つめえりふく》の男が現われ、僕の顔を見ると、
「ああ、此奴《こいつ》だ。こいつを連れてゆくのだ。それッ……」
 と叫んだ。その声の下に、ドッと飛びこんできた詰襟服の一団は、有無をいわさず手どり足どり、僕を担《かつ》ぎあげて、表に待たせてあった檻《おり》のような自動車の中に入れてしまった。僕はあまり思いがけない仕打ちに愕《おどろ》いて、大声で喚《わめ》きたてたが、母親は不在だったし、それから生憎《あいにく》と森おじさんも留守だったので、誰も僕の味方になってくれる者もなく、結局僕を知らない連中は、あれが変なのかといわぬばかりに好奇の眼を輝かせて見送るばかりで、誰一人僕を助けてくれるものはなかった。そうして僕は、やすやすとこの精神病院に入れられてしまったのだった。
「僕は気が変じゃないぞ。早く母親を呼べ。――僕を変だと診断するのか。そんな院長こそ変だ!」
 僕は腹立ちまぎれに、そんな[#「そんな」は底本では「そんに」、403-上段-17]風に怒鳴りちらした。だが、その結果は反《かえ》ってよくなかった。僕はますます気が変のように見られ、しまいには自分自身でも、或いは僕は変になっているのじゃないかと錯覚《さっかく》を起こしたくらいだった。
 はじめは腹が立って腹が立って、ろくろく飯も咽喉を通らなかったが、そのうち、いつとはなしに諦《あきら》めの心ができて、乱暴することを控《ひか》えるようになった。しかし監禁室の生活はとても退屈だった。思ってもみるがいい。三度の飯をたべる以外に何の仕事がある訳ではなく、本も新聞もないのだ。窓から外を見ようとすれば、塀《へい》が意地わるくふさいでいた。
 この退屈な監禁室の生活に、ただ一つ僕を慰めてくれたものがあった。それはひそかに身に隠して置いた一個の鍵だった。それは実は森おじさんの戸棚にもぐりこんだとき、隅に落ちていたのを失敬したものであるが、極く昔、和蘭《オランダ》あたりで作られたものでないかと思うほど、古ぼけた珍らしい形の鍵だった。そしてもう一つ奇妙なことに、その鍵の握り輪の内側が、丁度若い女の横顔をくりぬいたような形になっていた。そこがたいへん僕の気に入って、無断で貰ってきたのだったが、その鍵だけは監視人の眼も胡魔化《ごまか》しおおせて、いまだに僕の手にあり、僕はそれを唯一の玩具――いや宝物として退屈きわまる毎日をわずかに慰めていたのだった。
 その後、ついに会えないかと思った母親にも、また森おじさんにも、たった一度だけ会う機会があった。しかもそのときは二人揃って一緒に、この病室を訪れた。僕は天にも昇る悦《よろこ》びで、僕は気が変ではないから直ぐ出してくれるようにと熱心に頼んだのである。しかしどういうものか二人は僕の頼みにすぐには賛成してくれなかった。反《かえ》って二人して僕に詰問するような態度で、
「ねえ準一や。お前はおじさんの室から、何か盗みだして持ってやしないかい。そうなら早くお返しするんだよ。でないと妾《わたし》は困ってしまう……」
「北川君。そいつは何処に隠してあるんだか話してくれんか。教えてくれりゃ、なんとか早く癒《なお》って退院できるように骨を折ってみるが……」
 といった。この唐突の話には面喰ってしまった。始めは一体なんのことを云っているのか分らなかったが、そのうちに、
(ハハア。ひょっとすると、これは横顔女の鍵のことを云っているのかしら?)
 と気がついた。けれども僕はその鍵をどうしても渡す気になれなかった。鍵を渡した代償に、この病院を出すというが、それは嘘《うそ》ッ八《ぱち》だということがよく読めた。それでは大損だった。それにもう一つ鍵を渡したくない理由があった。それは――それはちょっと言うのも恥かしい話であるが、実は僕はいつとなくこの鍵の握り輪のところに刻まれている横顔の婦人に恋のようなものを感じていたからだった。この世で一番大事な恋人を誰が人手に渡すものか!
 そのことあって以来、僕は母親お鳥も森おじさんも一向頼りにならないことを知った。そしてこの上は何とかして、この恐ろしい精神病院を自力でもって逃げださねばならないと思った。
 それから僕は、この困難な脱走の手を、あれやこれやと考えぬいた。そしてとうとう、これならうまくゆくに違いないという方法を発見したのだった。この上は、いい機会がくるのを待つばかりとなった――
 さて今夜こそ、絶好のチャンスだった。今夜こそ、どうしても脱走を決行しなければならない。だがもし、その脱走が失敗に帰したとしたら、それこそ森おじさん――イヤ、これからはもうおじさんなんて呼ばないことにしよう――森虎造の掌中に握られているようなこの島の中のことだから、僕の生命は無いものと覚悟していなければならないだろう。

 決死の脱走計画

 僕が覘《ねら》ったのは、この監禁室の入口の扉だった。
 その扉は大きな鉄扉でできていた。壁は鉄筋の入った厚いコンクリートの壁だった。どっちもそのままでは破ることができない。
 その鉄扉と壁体とは、外から大きな鉄の腕金《うでがね》が横に仆れて、堅固なつっぱりになる仕掛だった。その上、下ろされた腕金には逞《たくま》しい錠前が懸るようになっていた。
 いつも内部で気をつけていると、鉄の腕金の方は下ろされ、錠前の方は午後十一時の点検がすむとピチンと下ろされるが、それまではいつも外されていることが分った。すると結局扉の外の横になっている腕金だけ、縦にできさえすれば、この部屋から出られることになるのだが、室内からその腕金に手を届かせられるような都合のよいことにはなっていなかったし、その腕金を見ることもできなかった。それに腕金は端の方に、時計の振子を大きくしたような相当な錘《おも》りがついていたから、腕金を上げるのにかなり骨が折れた。――しかし結局、僕の覘いどころは、この腕金を監禁室の内部から外すことにあった。
 脱走計画のことで、最初に僕を元気づけたものは、この扉のすぐ左側の壁の、その一番下のところに三寸四方ほどの四角い穴が切ってあることだった。これは空気抜けの穴でもあったし、また室内を水で洗浄するとき、その水の捌《は》け口《ぐち》でもあった。この穴に手首を入れてみると、楽に入った。しかし腕の附け根まで入れてみても、手首は腕金にはとうてい届かない距離にあった。その距離は約二尺だった。もう二尺だけ手が長ければ腕金の錘りにとどいて腕金を起こすことができるのだが、人間の手がこの上二尺も長かったら、それは化物である。
 しかし兎《と》に角《かく》、問題は二尺の距離だった。もし二尺ばかりの棒切れが手許にありさえすれば、こいつを手に握って腕金の錘りにまで届かせることができるのだった。だが監禁室にはそんな棒切れは厳禁になっている。いや棒切れどころか、硬いものは釘《くぎ》一本|小楊子《こようじ》一本でも許されないのだ。――遂にこの計画は実行ができないのであろうか。
 ところが人間の知恵なんて恐ろしいもので、僕はとうとう二尺ばかりの棒切れを手に入れることができたのだった。といって監守を買収したのではない。だれの厄介にもならずに僕一人で二尺の棒切れを作りあげたのだった。
 そういうと、僕がまるで手品でも使ったように聞えるが、――そうだ、これはやはり手品のうちかも知れない。とにかく僕は考えるところがあって、母親のところへ使を立て、腹をこわしているので朝と昼とはうどんを差入れてくれるように頼んでもらった。すると返事があって、監守が伝えた。
「オイ北川、悦んでいいぞ、これから朝昼二食はうどんを取ってやる。但しいつも一杯だけだぞ」
 それから僕は二食をうどんにし、夕方だけ飯を食べた。本当は、別に腹をこわしているわけでもなく外《ほか》に思わくがあったのだった。うどんを食べるには、必ず杉の割箸がついてくるが、僕は食べ終ると、これをポキンと二つに折って丼の中へ投げ込み、下げてもらった。が、実はそこに種があるのだった。箸は二つに折れて、丼の中に入っているようであったが、本当は僕はそれを三つに折り、両端の二つを丼の中に入れ、そして真中の部分をひそかに貯えはじめたのだった。だから二つに折れているものを継いでみると、箸の寸法が足りないことがすぐ分る筈だった。しかし監守は箸が二つに折れていることに安心して、寸法の足りないところまでに気がつかなかった。
 辛抱に辛抱を重ねて、短い杉箸を集めていった僕は、もうよかろうというところに達した。こんどは方針をかえて、夕飯のときの御飯をすこしずつポケットに忍びこませた。そして監守が膳を下げ、身体を点検して帰ってしまうと、その飯をとりだして、練りあわせて練飯を作った。そしてよく練れた練飯でもって、杉箸の片を四方一束に貼りあわせ、且つ一本ずつ少しばかり端を不揃いにして置いて、だんだん先へ長く継いでいった。結局一と月かかったけれどこんな風にしてとうとう二尺あまりの丈夫な棒切れを作ることが出来た。幸いに隠し方がうまかったので、監守に見つからずに済んだ。これさえあればもうしめたものである。これを手にもって、例の四角な穴から外へだし、腕金の錘りをつきあげれば扉は開く筈だった。
 あとは機会を待つだけのことだったが、いよいよ今夜は、待ちに待ったその夜だった。今夜からこの黄風島の夏祭りが始まるのだった。北国にも夏はあった。それは極めて短い夏であったが、それだけに一年中で夏は尊いのだった。島は現地の人といわず、日本人といわず、昼も夜ものべつ幕なしに、飲み歌い踊って暮すのだった。僕たちの監守にとっても、それはやはり尊い夏祭りの夜だったのである。
 午後九時に、僕たちの部屋を二人の監守が見まわるのが常例になっていた。そのときは人員の点呼をし、健康状態がよいかどうかをたしかめた上、就寝させられることになっていた。
 果してその夜も、常例の点呼が始まった。
「第四号室。――皆居るかア。――」
 一人の監守は、室内に入ると扉の陰に立って入口を守り、もう一人の監守は、室の向うの隅こっちの隅でそれぞれ勝手なことをやっている患者の傍へいちいち行って、まるで郵便函の中の手紙を押すように身体を点検した。いつも裸になっている患者には、慣例によって西洋寝衣のようなものを被せた。――最初に監守は僕の傍へ近よったが、プーンとひどく酒くさかった。入口の監守はと見ると、扉につかまったまま、靴尖でコツコツと佐渡おけさを叩き鳴らしていた。
「皆、おとなしく、早く寝ちまうのだぞオ。――」
 そういい置いて、二人の監守は室を出ていった。――靴音はだんだん遠のいて、次の室を明けるらしいガチャンガチャンという音が聞えてきた。僕はなおも五分間を待った。監守が鉤型《かぎがた》に折れた向うの病棟へ廻るのを待つためだった。
 いよいよ、時は熟した。
 僕は煎餅蒲団《せんべいぶとん》の間から滑りだすと、大胆に行動を開始した。扉の上の欄間に隠してあった杉箸細工の棒切れをとりだすと、かねての手筈どおり、扉の下に腹匍い、棒切れをもった腕を空気穴から出して棒の先で壁を軽く叩きながら、腕金を探った。そんなことをしながらも、もしや廊下を誰かが通りかかって、この大胆な振舞を見られていやしないかと、外が見えぬ僕は、たいへん心配だった。
 ――棒の先にコツンと錘りが触った。それをコンコンと叩きながら、程よい真中あたりに見当をつけ、そこへ棒切れを押しつけた。僕の心臓はにわかに激しく高鳴った。さあ、巧くゆくか失敗するか、次の瞬間に決るのだ。
「うーン」
 棒の先に、だんだんと力を籠《こ》めていった。ギイギイギイと腕金の錘りが浮きだした。僕はここぞと思ってあらん限りの力を出して腕をつっぱった。……
 ビシリッ!
「失敗《しま》った。――」
 と思ったときは、もう遅かった。杉箸細工の棒切れはもろくも折れて、腕は空を衝き、勢あまって頭を壁にガーンとぶっつけた。

 生死の分岐点

 そのときの僕の残念さといったら、口にも文字にもあらわせなかった。二月ばかり、並々ならぬ苦心をして、やっと作りあげた棒が、最後の舞台で脆くも折れてしまったのだから、その口惜しさといったらなんといってよいか、腸《はらわた》が熱くなるようであった。
 僕は床の上から力なく起きあがった。運命の神はこんなにも意地悪なものかと慨《なげ》きながら……。
 僕は暫くジッと鉄扉を睨みつけていた。あの箸棒さえ折れなかったら、今ごろはこの扉がギイッと明いたのだ――と思いながら、指さきで鉄扉をちょんと弾いた。
「呀《あ》ッ。――」
 僕は思わず大声で喚《わめ》いた。なんという思いがけないことだろう。僕の指さきに籠《こ》めた僅かばかりの力で、城壁のように動かないと思っていた扉がギイッと音をたてて外へ開いたのだった。渓谷《けいこく》のような深い失望から、たちまち峻岳《しゅんがく》のように高い喜悦《きえつ》へ、――。
(そうだ。杉箸の棒は折れたけれど、折れる前に、扉の腕金をすっかり起していたのだ! 万歳)
 僕は咄嗟の間に真相を悟った。
 僕は喜びのあまり、すぐに扉の外へとびだした。そして気がついて背後をふりかえると、さっきから僕のすることを興味ぶかげに寄ってみていた同室の二人が、これも続いて室内から飛び出してこようとするところだった。
「うぬッ――」
 僕はふりかえりざま、二人を室内に押し戻すと、鉄扉をピシャンと閉めてしまった。いま一緒に出られては、すぐ監守に見つかってしまう。それでは二ヶ月の苦心も水の泡だった。――押し戻された二人は、争って覗き穴のところから顔をつきだし、まるで獣のように咆《ほ》えたてた。
 僕は鉄扉の外から、腕金を横に仆して、もう誰も出られないようにした。そして暗い廊下の壁に身体をピタリとつけ、蜘蛛のように匍いながら出口の方へ進んだ。
 出口には、とても頑丈な鉄格子があって、その真中が、鉄格子の扉になっていた。そしてその外に、監守の詰所があった。そこには灯があかあかと点っていた。
 出口の鉄格子はピシャンと閉っていた。しかしその格子には、大きな錠前がついていながら、いつも錠が下りていないことを僕は予《あらかじ》め知っていた。それは出入が頻繁なので、いちいち掛けておいたのではたいへん不便なせいであろう。
「あの関所さえ越せば……」
 僕は幸いあたりに人のいないのを見澄すと、胸を躍らせて鉄格子の扉に近づいた。――果然《かぜん》今夜も鉄格子には錠が下りていなかった。
「しめた」
 僕は鉄格子に手をかけると、ソッと押してみた。
 ギギギギギイ。
 鉄格子には狂いが来ているらしく、甲高い金属の擦れあう音がして、僕の肝《きも》を冷やりとさせた。
 こいつはいけない! と思ったが、格子を開けなければ外へ出られない。僕は更に気をつけて、ソッと扉を押しつづけたが、それでもギギギギギイと鉄格子はきしんだ。監守詰所にいる人に、悟られなければよいが……。
「だッ、誰? 清田君か――」
 と、突然詰所のうちから声がした。かなりアルコールが廻っているらしい声だった。僕は電気にひっかかったように、その場に震えだした。露見《ろけん》か?
「おウ……」
 僕は大胆にも作り声をして返事をした。
「早くしろ、早く。出かけるのが遅くなるじゃないか。……」
「うむ――」
 僕は鉄扉を開くと、スルリと外へ出た。そして腰をかがめて、詰所の窓下を通りぬけ、あとは廊下をなるべく音をたてずに疾走したのだった。
「なにをしとるんだ。――」
 そのとき詰所の硝子窓がガラリと開いた。
「おい。……誰だ。呀《あ》ッ、逃げたなッ。――」
 監守の怒号する声、――それにつづいて乱暴にも、ダダーン、ダダーンと拳銃の響き!
 ヒューッ、ヒューッ――、廊下を飛ぶように走ってゆく僕の耳許《みみもと》を掠《かす》めて、銃丸《じゅうがん》がとおりすぎた。そして或る弾は、コンクリートの壁に一度当ってから、足許にゴロゴロ転がって来た。いま僕は生死の境に立っていた。無我夢中に、どこをどう突走ったか覚えがないが、建物の外へ出ると、真暗な庭にとびだし、それから、つきあたったところの高い塀にヤッと飛びついて、転がり落ちるように塀の外に落ちた。そのとき精神病院の塔の上で、ウーウーウーとサイレンが鳴りだしたのを聞いた。――僕はそれを後にして、ドンドンと祭の夜の灯の街の方へ逃げだしていった。
 そのとき僕の服装は、病院の患者に支給される西洋寝衣だったので、ある橋の畔まで来たとき、それをすっかり脱いで、小脇に抱えて来た紙包を解いて予《かね》て用意の詰襟《つめえり》の学生服に着かえ、寝衣の方は紙包みにし、傍に落ちていた手頃の石を錘《おも》し代りに結び、河の中へドボーンと投げこんでしまった。そこで、どこから見ても、学生になりすましたのだった。僕は大威張りで、明るい灯の街へ入っていった。
 夜の街は、沸きかえるような賑かさだった。両側の飲食店からは、絃歌の音がさんざめき、それに交って、どこの露地からも、異国情調の濃い胡弓《こきゅう》の音や騒々しい銅鑼《どら》のぶったたくような音が響いて来た。色提灯を吊し、赤黄青のモールで飾りたてた家々の窓はいずれも開放され、その中には踊り且つ歌う人の取り乱した姿が見えた。また街路の上には、音頭を歌って手ふり足ふり、踊りあるく一団があるかと思うと、また横丁から大きな竜の作りものを多勢で担ぎ出してきて、道路を嘗《な》めるように踊ってゆくのだった。
 ラランラ、ララ……。
 シャットシャット、ヨイヨイヨイ。
 ヒョウヒョウヒョウヒョウ。
 いろんな掛け声が、舗道から屋根の上へと狂喜乱舞[#「狂喜乱舞」は底本では「狂気乱舞」、410-上段-3]する。僕の心は脱走者であることさえ一時忘れ、群衆の熱狂にあおられ、だんだんと愉快な気持になっていった。
 そんな好い気持になってきたのも、あまり長い間のことではなかった。
 この歓楽の巷に、突如として響いて来たサイレンの音、――人々は回転の停った活動写真のように踊りの手をやめて、其の場に棒立ちになった。向うの大通りから、ヘッドライトをらんらんと輝かして自動車隊が闖入《ちんにゅう》してきた。僕はツと壁ぎわに身を隠した。
「ああ――、静まれ、静まれ。いま重大な布告があるぞオ」
 車上の男は、各国語で、同じことをペラペラと叫んだ。その車の奥を見ると、僕はギクリとした。そこには着飾った森おじ――ではない森虎造が落ちつかぬ顔をしながら、強いて反《そ》り身《み》になって威厳を保とうとしているのだった。
「布告を読みあげる。――」と、森虎造の横に掛けていた金ピカの警務署長らしいのが立ち上った。
「先刻、精神病院から、凶悪な患者が脱走した。年齢は二十四歳、日本人で北川準一《きたがわじゅんいち》という男だ。背丈は一メートル六十、色の白い青年で、額の生え際に小さい傷跡がある。服装は、鼠色の寝衣風のズボンと上衣とをつけている。非常に凶悪な青年だから、放置しておいては危険千万である。注意を払って、見つけ次第逮捕するように。場合によっては、射殺するも已《や》むを得ない。逮捕又は射殺者には銀二千ドルの賞金を与える。……」
 僕は、自分で自分の逮捕布告を聞いた。銀二千ドルの生命か! その価値は高いとは云えなかったけれど、そんな賞金を出してまで逮捕――いや射殺までしようというのは何ごとか。僕はそんな恐ろしい人間なのだろうか。見ていると、これはどうやら、森虎造が賞金を出すのじゃないかと思われた。森虎は、亡き父の親友だと聞いていた。父が米国で死んだとき、それを当時東京に住んでいた僕たちに詳しく知らせてくれたのは、森のおじさんだった。またこの地へ、母のお鳥と僕とを心よく迎えてくれ、室まで僕たちに貸し与えてくれて好意を見せた森のおじさんだった。それが間もなく僕を苛酷《かこく》に扱い、精神病院に入れたり、揚句《あげく》の果は、僕を射殺しろとまで薦《すす》めている。……なんという恐ろしい変り方だ。……僕にはサッパリ理解ができないことだった。
 賞金として銀二千ドル!
 群衆は踊りのことも歌のことも、一時忘れてドッと歓声をあげた。
「畜生! お前らに掴まってたまるかい」
 僕は建物の陰で拳をにぎり、ブルブルと身体を震わした。
 そのときのことだった。
 何者とも知れず、突然横合いから腕をグッと捉えた者があった。
「北川準一!」
 失敗《しま》った! ハッと振りかえってみると、そこには結いたての島田髷《しまだまげ》に美しい振袖を着た美しい女が立っていて、僕の両腕の急所を、女とは思えぬ力でもってグッと締めつけているのだった。
 絶体絶命! 僕はこの女のため、金に変えられて仕舞う運命なのだろうか?

 秀蓮尼《しゅうれんに》庵室《あんしつ》

 腕を締めつけた女は、あまりに美しかった。僕はまるで魂を盗まれたような気がした。僕は死刑から脱がれるためにその女を蹴倒して逃げねばならぬ。しかもそれを決行しなかった訳は、その女があまりにも僕がいつも胸に抱いていた幻の女に似た感じをもっていたからだった。たった一つしかない生命よりも尊いものが、他にもあったのだった。
 いや蹴倒すどころか、僕は捉えられたまま、大声すら発しようとしなかった。――もっともそのとき女の涼しい眼眸の中に、なにか僕に対する好意のようなものを感じたからでもあった。
「北川さんでしょ。……」
「し、縛って……突き出して下さい」
「叱《し》ッ。――」と女は目顔で叱って、「……誰かに悟られると、大変なことになってよ」
「えッ。――」
 僕は女の方をふりかえった。
「さあ、ここにいては危い――早くお逃げなさい」
「ああ、貴女は僕の敵ではなかったのですか」
「もちろんよ」と女はニッコリと笑い「でもこの島のどこへ逃げても危いわネ。じゃあ隠れるのに一番いいところを教えてあげるわネ」
「え、隠れどころ?」
「この向うの道をドンドン南へとってゆくと、山の上に昇っちまうのよ。そこに大きなお寺があるの。そこは蓮照寺《れんしょうじ》という尼寺《あまでら》なのよ。そこは女人の外は禁制なんだけれど、裏門から忍びこんでごらんなさい。そして鐘つき堂のある丘をのぼると、そこに小さな庵室《あんしつ》があってよ。そこに秀蓮尼《しゅうれんに》という尼《あま》さんが棲《す》んでいるから、その人にわけを言って匿《かく》まってもらうといいわ。分って?」
「ああ、分りました。ありがとう、ありがとう、僕はどんなにして貴方にお礼をしたらいいでしょう」
「お礼ですって? ホホホホ。生命をとられかけていて、お礼はないわよ。……それよりこの手拭で鉢巻をなさいよ。貴方の目印のその額の傷を隠すんだわ。そして一刻も早く、教えてあげたところへ行ったらいいじゃないの」
「じゃあ行きます。……最後に、ぜひ聞かせて下さい。生命の恩人である貴方のお名前を……」
「あたしの名前? 名前なんか聞いてどうするの……でも教えてあげましょうか。島田髷《しまだまげ》の女――よ」
 女は自ら、つと軒下を出ていった。
 僕は呆然《ぼうぜん》とその不思議な若い女のあとを見送っていたが、やがて吾れにかえると島田髷の女から貰った手拭で鉢巻をし、生命をかけた危ない目印を隠した。そして続いてその軒下を出ると、スルリと裏通へ滑りこんだ。
 裏通は島の人たちで異様な賑いを呈していた。しかしあっちで一団、こっちで一団と、彼等はなにかヒソヒソと話しあっていた。それは脱走者である僕に懸けられた莫大な賞金のことに違いなかった。
 住民の中には、僕の方を胡散《うさん》くさそうに、ふりかえる者もあった。しかし僕は逸早《いちはや》く病院の寝衣を脱ぎすて、学生服に向う鉢巻という扮装になっていたので、そんなに深く咎《とが》められずにすんだ。
「蓮照寺へ――」
 僕は前後左右きびしく警戒しながら、おおよその見当をつけて、南の方へズンズン歩いていった。
 隆魔山《こうまさん》――という、島で有名な山のことは僕は一度来て知っていた。見覚えのある蓮照寺の垣根の前にヒョックリ出たときは、夢のように嬉しかった。
「裏門は何処だろう?」
 尼寺の垣根は、まるで小型の万里の長城のように、どこまでも続いていた。どこが裏門やら探すのに骨が折れたが、とにかく門が見つかったものだから、そこへ飛びこんだ。
 尼寺の庭は文字どおり闇黒だった。どこに鐘楼《しょうろう》があるのやら、径《みち》があるのやら、見当がつかなかった。――僕は棒切れを一本拾って、それを振りまわしながら、寺院の庭を歩きまわった。三十分ぐらいもグルグル歩きまわった末、祭りの灯でほの明るい空を大きな鐘楼の甍《いらか》が抜き絵のようにクッキリ浮かんでいるのを発見して、僕は歓喜した。
 鐘楼のかげの庵室を探しあてることなどは、もはやさしたる苦労ではなかった。庵室の障子には熟しきった梅の実のように、真黄色な灯がうつっていた。
 庵室の扉に、ソッと手をかけたとき、
「誰方《どなた》?」
 という低い声が、うちから聞こえた。
「……」僕は思わず手を放して黙したが、
「これは街で、庵主《あんじゅ》さまのお名前を教えられてきたものでございます」
「いま明けて進ぜます。しばらく……」
 うちらに微《かす》かな衣ずれの音があって、やがて扉のかけがねがコトリと音をたて、そして入口が静かに開かれた。
「わが名を教えられた、と。まずお入りになって事情を話してきかせて下さい」
 尼僧は僕が男子であるのに気がつかないような様子で、なんの逡巡《しゅんじゅん》もなく上へ招じ入れたのだった。
 土間の内に、四畳半ほどの庵室が二つあり、その奥まった室には、床に弥陀如来《みだにょらい》が安置されてあって油入りの燭台が二基。杏色の灯がチロチロと燃えていた。その微かな光の前に秀蓮尼と僕とは向いあった。――尼僧というが、低い声音に似ず、庵主は意外にもまだ年齢若い女だった。剃《そ》りたての綺麗な頭に、燭台の灯がうつって、チラチラと動いた。
「実は僕は、さきほど病院を脱走した者でございまして……」と、僕は額に巻いた手拭を解きながら、身の上に関するすべての物語を喋り、そしてサイレン鳴る街の軒下で、一人の美しい島田髷に振袖の着物をきた女に庵主さんのことを教えられきた旨を告げたのだった。そして、
「……どうか、この暴虐[#「暴虐」は底本では「暴逆」、413-下段-7]なる手より、しばらくお匿《かく》まい下さいまし」
 と、両手をついて頭を下げた。
「それはまことにお気の毒なお身の上」と尼僧は水のように静かに云った。「おもとめによりお匿まい申しましょうから、お気強く遊ばせ。しかしながら、わたくしにも迷惑のかかることゆえ、いかなることがありましょうとも、わが許しなくてはこの庵室より外に出ることは愚《おろ》か、お顔を出すことも罷《まか》りなりませぬぞ」
「ああ、忝《かたじ》けのうございます。匿まって下さるのだったら、なんで庵主さまのおいいつけに背きましょうか、どうも有難うございます」
 僕は感激のあまり、畳の上へほろほろ泪《なみだ》を落した。
 尼僧は僕に一杯の白湯をふるまったあとで、
「ではもうお疲れでしょうから、お睡りなさいませ。但し他所から衾をとってくることもなりませぬからわたくしと一つ寝となりますが、よろしゅうございますか」
「一つ寝?」僕は愕《おどろ》いて聞きかえした。「いえ、僕は寝なくてもいいのです」
 尼僧はそれには返事もせず、しとやかに立ちあがると、戸棚の中をあけて、次の部屋に床をのべると枕を一つ、左によせて置いた。それからなおも戸棚の中を探していたが、一つの風呂敷を取出し、それに何物かを包んで、枕の形に作りあげた。そして寝床の右に、急造の枕を置いた。一つ臥床に並んだ二つの枕をみると、僕はなんだか顔が火のように熱くなった。
「あなたはこの仮り枕をお使いなされませ。では一刻も早く横になって、お疲れを直されるがよいでしょう。わたくしは暫く看経《かんきん》をいたして、あとで床に入りますから、どうぞお先へ……」
 僕は逡《ためら》った。尼僧にもせよ、相手は若い女であった。それが一つ床に臥すのはどんなものだろうか。
「お先へお臥しなされませ。――」
 尼僧はくりかえし、それを云った。――僕はさきほど匿まって下さるなら庵主のいいつけを必ず守るといった。この上、庵主の言葉に背いて、ここを出されるようになっては大変だと思った。それで遂に意を決して、先へ寝床に入った。看経が終るまで一時であろうが、その間だけでも睡り、尼僧が入って来たら起きようと心に決めた。
 僕は衣服を軽くして、寝床に入った。尼僧は弥陀如来の前に、明りをかきあげて、静かに経を読みだした。
 仮りの枕は、何が入っているのか、たいへんいい香がした。それはこの尼僧院には、およそ似つかしからぬ艶めいた香を漾《ただよ》わせるのだった。それとも若い女というものは、作らずしてこんな体臭をもっているのだろうか。そんなことを考えているとなかなか睡れなかった。睡るかわりに、変な夢をそれからそれへと見つづけていた。街の傍で始めてあった島田髷の女が出て来てニッコリ笑う。するとそれがいつの間にか尼僧のとりすました顔になる。すると横合いから森虎の憎々しい面がとびだす、母親が泣きながら森虎のあとを追う。すると病院の監守が、機関銃をもって追ってくる。三人の青年がそれに噛みつく。……そんな妖夢を追っているうちに、僕は疲労に負けて、いつの間にかグッスリ熟睡に落ちた。……

 鍵にまつわる秘密

 気がついてみると、お経の声がしている。ハッと思って、目をあけてみると、いつの間にか、障子に明るく陽がさしていた。
「しまった――」
 僕はこわごわ薄目を動かして、隣の枕を見た。それはズッシリと重い頭が永く載っていたらしく真中が抉《えぐ》ったように引込んでいた。僕は蒲団の中で、ソッと手を伸ばしてみた。
「あッ、いけない――」
 僕の身体の隣りには、たしかに人が寝たらしく生温かさが感じられた。――あの年若い尼僧は、たしかに僕の隣りに寝たに相違ない!
 僕が起きあがると、秀蓮尼は経をやめた。朝の挨拶をすると、尼僧は、
「昨夜はよくお寝みになられたようでしたナ」
 といって微かに笑った。
 作ってくれた朝飯の膳に向いあったとき、僕は庵主が、昨夜陰影の強い灯影でみたよりも、更に年若いのに愕《おどろ》いた。よくは分らないけれど、ひょっとすると僕より一つ二つ年齢が下なのかもしれない。そしてまた昨夜見たよりも、遥かに目鼻立ちも整い美しい尼僧だった。
「どこかで見たような人だが……」
 僕は円らな頭をもった秀蓮尼を眺めたのだったが、そこまで出かかっているくせに、どうも思い出せなかった。
 朝のうちは秀蓮尼は外へ出たり、また庵へ入ったりなかなか忙しそうに見えた。僕は外を覗くことも許されなかったので、弥陀如来の前でゴロリと寝ころび、昨日に変わる吾が棲居《すまい》のことやら、これから先、母のところを訪ねたものか、それともこのまま黄風島を脱けだしたものだろうかなどと、いろいろなことを考えくらした。
 その考えもつきたころ、僕は、
「ああ、そうだ。……忘れていたぞ、恋人の鍵を!」
 恋人の横顔を刻んである鍵――それをトンと忘れていたのだった。僕はそれを膚につけていた。それを取出して、じっとその横顔を眺めた。鍵の握り輪の中の女は、ウェーブをしたような髪を結っていた。すんなりと伸びた鼻すじ。小さい眉、ことにつぶらな下唇、そして形のいい可愛い頤……
「もし、北川さん」
 わが名を呼ぶこえに、目覚めてみると、傍に秀蓮尼が座っていた。いつの間に庵主は帰ってきたのか気がつかなかった。僕はいい気持になって、昼寝をしていたものらしい。
「やあこれは……」
 僕はガバと起き直るなり、頭を掻《か》いた。秀蓮尼の顔を見ると、これは愕いた。なにごとが起ったのであろう。彼女の顔色は紙よりも白かった。――
「北川さん。この鍵は貴方のですの」
「そうです、僕のですよ」
「どこで手に入れなさいまして?」
「それは、――」
 といったが、秀蓮尼は眼を輝かし、いまにも飛び掛ろうという勢を示していた。これは思いがけない大事件になった。何が俄《にわ》かに仏《ほとけ》のような彼女を、セパート犬のように緊張させたのかまったく彼女は別人のごとくになった。
「それは、森おじさんの戸棚の中で拾ったものですよ」
「森おじさんというと……」
「ゆうべお話した森虎造のことですよ。僕の母親が、いま泊っている筈《はず》の家です」
「ああ、そうですか。……貴方は森虎造の戸棚の中に、これと一緒にあった美しい貼り交ぜをしたこれ位《ぐらい》の函を見ませんでした?」
 といって尼は、弁当函ほどの箱の大きさを手で示した。彼女の云うので思い出したが、僕が森虎の戸棚探しを始めて間もない頃、一つのトランクの中に、いま話のような美しい小函を見つけたことがあった。それは玩具のように美しかったので覚えている。手にとりあげてみると、たいへん軽かった。開けようとしたが錠がかかっていた。耳のところで振ってみると、コソコソと微《かす》かな音がした。大したものも入って居らぬらしく、それにそのときは鍵が見つからなかったので、そのまま元のようにして置いた。その後、そのトランクに錠がかかって、もう見られなくなった。――僕は尼がその函のことを云っているのだと思った。しかしそれにしても、何故そんな函のことを隆魔山《こうまさん》の尼僧が知っているのだろう?
 僕が黙っているのを見ると、秀蓮尼はジリジリと膝をのりだして、いきなり僕の腕を捉えた。
「ね、その函のことを御存じなんでしょう。さあさあ早く云って下さいませ。イヤこうなれば何もかもお話しましょう。ねえ北川準一さん。その美しい函は、実は貴方の亡くなった父君準之介氏が、米国にいられるとき秘蔵していられたという問題の函なんですよ」
「なんですって?」
 僕は心臓の止るほど愕いた。このような偏土《へんど》に来て、しかもこのような神秘な尼僧院の中で、そして一夜を一つ衾に夢を結んだ生命の恩人である尼僧から、突然懐かしい父の名を耳にしようなどとは夢にも思いがけぬことだった。
「庵主さんは、僕の亡き父をご存じなんですか?」
 尼僧はちょっと眼を伏せたが、
「ええすこしは存じているといったがいいのでしょう。いずれ詳しいお話をするときが来るでしょう」
「庵主さん、貴方は失礼ながら、どんな素性の方ですか」
 尼僧はそれには応えようともせず、
「その函の中には、或る秘密があるのです。あたしはその在所《ありか》を探していたのです。貴方のお持ちの鍵は、その函を開く鍵なんですのよ。どうかその鍵をあたしに譲って下さらない。悪いようにはいたしません。その代り、今夜にも、貴方を安全にこの島から逃がしてあげます」
「僕は逃げるのはよします。それに母親もいますし……」
「母親! ああお鳥さんのことをいっているのですね。あれは貴方には関係のない継母なんです。それよりもぐずぐずしていて森虎造に見つかってごらん遊ばせ、立ち処に生命はありませんよ。まず貴方の身体を安全なところへ置くことです。……お分りになったでしょう。さあ、その鍵を、あたしに渡して下さい!」
 そういわれてみると、僕は鍵を渡さないわけにはゆかなかった。しかしこの思い出深い鍵の中の恋人に別れることはなかなか辛いことだった。
「渡してもいいのですが、……実はこの鍵の中には僕の恋人がいるのです」
「鍵の中に恋人が?」
 美しい庵主は愕いて目をみはった。それで僕は思いきって、鍵の中の恋人の話をした。それから昨夜街の軒下で見た高島田に振袖の美しい女が、この恋人と同じような顔をしていたことを述べた。
「まあ、――」と尼は面白そうに微笑して「貴方は、昨夜|妾《わたし》を教えたその女の人がお気に召したのネ」
「庵主さんの前ですが、僕はあの娘さんのことがだんだん恋しくなってくるのです」
「あら、御馳走さまですわネ」と庵主は尼僧らしくない口を利いて「じゃあ、あの娘さんに会いたかないこと?」
「ええ、会いたいですとも、庵主さんはその娘さんの名前も居所も御存じなのでしょう。さあ教えて下さい」
「ホホホホ。そんなにお気に入りなら、また会わせてあげますわ。その代り、どうしてもあたしの云うように早くこの土地を去って下さらなきゃ、いけませんわ」
「それは駄目じゃありませんか。あの娘さんとはもう会えなくなる」
「それは大丈夫。あたしが後からきっと連れていってあげますわ」
 庵主のいかにも自信ありげな言葉は、まさか偽りではなさそうに見えた。僕はこの上はすべての運命を、再生の恩人の庵主に委せ、なにもかもその指揮どおりにする決心を定めた。
 ――恋人を彫り抜いた鍵は、遂に秀蓮尼の手に渡してしまった。彼女の胸にはどんな秘策が練られているのだろうか。鍵を見てから、急に昨夜とはガラリと態度を変えた秀蓮尼は、そも如何なる縁《ゆか》りの人物であろうか。

 恥ずかしき変装

 さすがは弥陀の光に包まれた聖域だけに、隆魔山蓮照寺のなかまでは、追跡の手が届いてこなかった。かくて夕陽は鬱蒼《うっそう》たる松林のあなたに沈み、そして夜がきた。街には賑かな祭りの最後の夜が来た。鐘楼の陰の秀蓮尼の庵室の中では、語るも妖しき猟奇の夜は来たのである。
 若き庵主は、弥陀如来の前に油入りの燭台を置き、黄色い灯を献じた。そして夕餐が済むと、その前に端座して静かに経文を誦し始めたのであった。僕は側から、灯に照らされた秀蓮尼の浮き彫のような顔を穴のあくほどジッと見つめていた。見れば見るほど端麗な尼僧であった。まだ若い身空を、この灰色の庵室に老い朽ちるに委せるなどとは、なんとしても忍びないことのように思われた。彼女はどんな事情で発心《ほっしん》し、楽しかるべき浮世を捨てたのだろう。……
 そんなことを考えているうちに、看経《かんきん》は終った。
「さあ、お待ち遠さまでした」と秀蓮尼は座を立って「では、いよいよ貴方を逃がす工夫に取り懸りましょう。だがくれぐれも申して置きますが、これからあたしがどんなことを貴方さまにいたしましょうともまたどんなことをお感じになっても、最初のお約束どおり、何もあたしの言葉に随い、この黄風島から対岸の懐しい内地、君島へ脱走して下さるでしょうね。それが誓っていただけるでしょうね」
「仕方がありません。前に云ったとおり、僕は庵主さんの命令に、絶対に服従します」
「結構です。――では、仕度にかかりましょう」
 そういうと、庵主は僕をさしまねいて、隣室の戸棚から、一つの葛籠《つづら》を下ろすと、これを弥陀の前にまで担がせた。僕が蓋を明けましょうかというと、まあ暫くといって止めた。
「これから貴方を変装させるのよ。それですっかり裸になって下さい」
 僕は庵主の顔を見たが、諦めて学生服を脱ぎ、それから襯衣を脱ぎ、遂に下帯一つになってしまった。
「さあ、それでいい。……ではこれから着つけにかかります。そこでこれで目隠しをしましょう。すっかり済むまで、貴方に見せたくないのよ」
 僕はただ溜息をつくだけだった。どんな大袈裟《おおげさ》なことが始まるかしらないが、云うとおり目隠しをする。すると庵主は、それを解いて、もう一度ギュッと縛り直した。――僕はもう何も見えなくなった。ただ鼓膜だけが頼みであった。
「ようございますか――黙ってさせるのよ」
 眼が見えなくなると、庵主の円らかな頭は見えず、声だけが聞えた。するとその声だけを聞いていると、庵主は実に若々しい女性であることがハッキリ感じられた。
「おやッ――」
 きつい猿股のようなものが履《はか》されたと思うと、次には胸のところから踵《かかと》のところへ届くほどのサラサラした長い布で巻かれた。なんだか、艶めかしいいい香が鼻をうった。そうだ、昨夜もこのような匂いがしたっけ。
「両手をあげてよ、――」
「呀《あ》ッ……」
 胸のまわりに、何かグルグルと捲きつけた。
 次に、彼女が背後にまわる気配がして、こんどは肩の上からゾロリとした着物のようなものを着せた。(和服らしい?)
 すると、こんどは腰骨のあたりを、細い紐でギュウギュウと巻いた。それがすむと、なんだか胸のところへたくしこみ、シュウシュウと音のする幅のある帯らしいものを乳の下に巻きつけた。――僕はドキンとした。頬が火のように火照《ほて》ってきた。
(これは女装じゃないか?)
 それから気をつけていると、後のところはいちいち思い当った。さっき着たのは長襦袢らしく、その上にまた重い袖のある着物が着せられ、やがて腕をあげてその袖がグルグルと巻きつけられ、こんどは胴中に幅の広い丸帯が締められ、そして最後に、羽織が着せられたことまで分った。庵主はその間、気味のわるいほど一語も発しなかった。ときどき彼女の柔軟な二の腕が僕の腰に搦みついたり、そうかと思うと熱い呼吸が僕の頬にかかったりした。
「さあ、こんどは座って下さらない。……そっとですよ。そっとネ」
 僕はいうとおりにした。
「もう目隠しはとってもいいわ、あとのことが出来ないから、仕方がないわ」
 目隠しをとってみると、想像していたよりも愕いた。僕は首から下に、美しい女の身体をもっているのだった。乳房は高く盛りあがり、膝もふっくりと張り、なげだした袂の間からは、艶かしい緋の襦袢がチラとのぞいている。――僕は半ば夢ごこちだった。
「さあ、頭を出して下さい」庵主は背後にまわると、僕の頭に布を巻いた。
 それから、どこに蔵ってあったのか、匂いの高い白粉を出して来て、僕の顔に塗りはじめた。呆《あき》れかえっているうちにそれも終った。
「すこし重いわよ」
 そういう声の下に、頭の上からズッシリ重いものが被《かぶ》せられた。そして耳のうしろで、紐がギュッと頭を縛めつけた。
「さあ、出来上った。――まあ貴方、よく似合うのネ。ほんとに惚《ほ》れ惚《ぼ》れするようないい女になってよ、まあ――」
 鏡があれば、ちょっと僕も覗いてみたい衝動に駆られた。それにしても、庵主はなぜこんな艶めかしい衣裳や、それから鬘までも持っているのだろう。彼女はどう見ても唯ものではない。
「ホホホホ。ちょっとここを御覧|遊《あそば》せ。――見えるでしょう? どう気に入って」
 ハッと振りむいてみると、庵主は間の襖を指していた。そこを見ると、背のすらりとした高島田の女の影がうつっているのではないか。僕はいまだかつて経験したことのない愕《おどろ》きと昂奮のために、呼吸をはずませるばかりだった。
「これなら大丈夫ですわよ。……時間は丁度いい頃です。お祭りはいま絶頂の賑いを呈していることでしょう。さあその混雑に紛れて、港まで逃げるのです。そこには極光丸という日本の汽船が今夜港を出ることになっていますから、入口で船長を呼び、この手紙を見せるのです。すると船長さんはきっと貴方を安全に保護して、君島まで連れていって下さるでしょう。……では貴方の幸福をお祈りして、そしてお別れしますわ」
 手紙を差出す庵主の手を、僕は思わずグッと握りしめた。
「ありがとう。どんなにか感謝いたします。……しかし僕は気が変わりました。もう行きません。殺されてもいいです。貴方の傍にいたいのです。僕はもう、なにもかも分りました。僕が脱走した夜、街の軒下でこの庵室を教えてくれた美しい島田髷の娘さんは、誰だったか分ったのです。それは庵主さん、貴方だったのです。……」
と女装の僕は庵主を抱えようとした。
「まあ、そんなに……」
 と、若い庵主は身を引いた。
「愛する貴方を置いて、どうして僕だけ逃げられましょう。でなかったら、これから僕と一緒に逃げて下さい。僕は生命のあるかぎり、貴方のために闘います」
「貴方は男らしくないのねえ。……」と庵主は急に冷やかな顔になって、壁ぎわへ身を引いた。「そんな人、あたし大嫌いよ」
「ああ、――」僕は呻《うめ》いた。
「では、やっぱり行きます。それがお約束でした。では貴方のお身の上に、神仏の加護があることを祈っています。僕は君島で、貴方の来るのをいつまでもいつまでも待っています。……」
 そういい置いて、僕は名残り惜しくも、庵室を後にすると、暗闇の外面に走り出たのだった。

 小田春代という女

 ここは君島の、或る機関に属する洋館の窓に倚って、沖の方を眺めているのは、秀蓮尼の助けによって、危く黄風島の脱走に成功した僕だった。珍らしく、一台の飛行機が空を飛んでいるのが見える――全く秀蓮尼のお陰だった。女装していればこそ、厳重な脱走青年監視の網をくぐって無事、港にまで逃げのびられたのだった。極光丸は聞くとすぐ知れた。あとは板の上を滑るようにスラスラとうまく運んで、次の朝この君島へ着いたばかりか、船長の説明によって、このような立派な館に客となることができたのだった。
 これらの破格の取扱いは、すべて秀蓮尼の信用によるものらしかった。不思議なる人物秀蓮尼!
 彼女はどうしたことだろう。それからこっちへ既に七日、いまだに彼女の消息はなかった。僕は毎日のように、沖合から人の現われるのを待ちつづけているのだった。
 中天に昇った太陽が、舗道の上に街路樹の濃い影を落しているとき、一台の自動車が風を切ってこの通へとびこんで来た。見れば幌型《ほろがた》の高級車だった。それは館に近づくと、急に速力を落し、スルスルと滑って、目の下に着いた。――すると中から、元気よく一人の学生が飛び出して来た。
 その学生は、帽子も被っていない丸坊主だったが、いきなり僕が頭を出している二階を見上げるとヒラヒラと右手をあげてうちふった。
 誰だろう?
「呀《あ》ッ、――帰って来たのだッ」
 僕はその学生が誰であるか、やっと分った。あまり思いがけない服装をしているから分らなかったが紛う方なき秀蓮尼だった。
 僕は階下へ駆けだしてゆくと、やがて上ってくる彼女と鉢合わせをした。
「よく帰って来たね」
「ええ、……心配していた?」
 僕は彼女を伴って二階へ案内した。
 男装の彼女は非常に元気だった。尼僧なんかどこかへ振り落してしまったようであった。
「よくそんな格好で帰って来たねえ」
「ホホホホ、これ貴方の洋服よ。こんどはあたしが貴方のを借りちまったわ。しかし実に大変だったのよ。これが無かったら、あたしうまく脱出できたかどうか疑問だわ。つまり、こうなのよ。――あたし序《ついで》に、貴方の仇敵《かたき》もとってきたわよ」
「ええッ。――それは何のこと?」
 彼女は冷い炭酸水を摂《と》りながら、意外なる出来ごとについて、僕に話して聞かせるのだった。――
 それによると、あの森虎造という男は、僕の亡き父準之介を殺した悪人だということだった。僕は今まで、父が米国で脳溢血で斃《たお》れたこととばかり思っていたが、そうではなくて、森虎造、通称ハルピン虎のために殺害されたという。そのわけは、ハルピン虎がその地で或る重大な悪事を犯しているところを、領事である亡父準之介に見られたため、理不尽《りふじん》にも執務中の父を薄刃の短剣で背後から刺し殺したのだった。同時にその部屋に父が秘蔵した例の貼り交ぜ細工の小函を値打のあるものと思い、鍵もろとも奪って逃げたのだった。
 あまりにも敏速な犯罪のために、亡父殺しの犯人は分らなかったばかりか、或る国際事情のため、領事が暗殺されたことを発表しかねたので、駆けつけた副領事の計《はから》いで、即時死因を脳溢血とし一般に知れわたることを防いだ。ただ証拠としては、特別の形をもった薄刃の凶器と、そのとき紛失した小函とその風変りな鍵の行方とが、後に残された。
 ハルピン虎は、何喰わぬ顔をして帰朝し、今は未亡人となったお鳥を訪ねて、悔《くや》みやら向うの模様を都合よく語ったりしたが、そのうちにお鳥の容色に迷い、遂に通じてしまったばかりか、実は莫大な遺産が僕の上に落ちてくるのを見すまし、悪心を起して横領を企てるに至った。継母お鳥も、いまは情念の悪鬼となり、虎に同意をして、下心あってあの黄風島へ渡り、計画に従って僕を病気として精神病院に入れ、折を見て殺害し、遺産を横領しようというつもりのところ、僕に脱走されてしまったのだった。その騒ぎの大きかったのも無理はない。――秀蓮尼は、こっちへかえるとき、ハルピン虎を正当防衛で射殺して来たそうだ。だから僕のために仇敵をうったも同然だ。
「どうして貴方は、虎なんかと渡りあったんです」
 と僕が尋ねると、彼女は言葉をついで云ったことである。
 それはもちろん、例の小函を探すためだった。僕が持っていた鍵によって、小函がハルピン虎の手にあることを知り邸内に忍びこんで、トランクを合鍵で開けて盗み出し、出ようとするところをハルピン虎に見つかったのだった。そして既に危くなったので、彼女は已《や》むなく彼を一発の下に射殺したのだった。しかし街はこのために俄かに厳重な警戒が敷かれ、だんだん調べの結果、犯人として秀蓮尼だということが分り、それがため追跡がいよいよ急になった。僧服を捨て、僕が残していった学生服に着かえ危地を脱走した。そして飛行機に乗って、今朝がた黄風島を抜けだし、先刻当港へついたということだった。
「でも、どうして森虎が犯人である確証が上ったんですか」
 と訊《き》くと、彼女は、
「それは、函の中に、彼が殺人に使った薄刃《うすば》の短剣が血にまみれた儘《まま》入っていたのですわ。そして血染の彼の指紋まで出ていましてよ。その上、あの日お父さんの部屋から失《う》せた小函を持っていただけでも怪しいことが分るでしょう」
 僕はその言葉を聞いて、あの虫の好かぬ森虎が、亡父の仇敵だったことをハッキリ知って、彼女に感謝した。しかしまだもう一つ腑に落ちぬことがあった。
「一体どうして貴方は、あの小函を探す必要があったんです。また父は、その小函の中にどんな大事なものを入れてあったのでしょう」
 彼女はそこですこし照れたらしく唇を噛みながら囁《ささや》くようにいった。
「……どうでもお聞きになりたいのね。じゃあ仕方がありませんわ。――あの小函をハルピン虎が開いてみますね、中にはなんにも大切なものが入っていなかったのよ。ただ彼はあの中に血染めの凶器をかくして小函を利用したわけなのね。ところが実はあの小函には、日本政府があるところからお預りしている非常に大切な書類が入っていたのよ。そういえばもうお察しがついたでしょうが、あの函は二重底になっていて、その間に挟んであったわけなのよ。もし政府がその保管に任ずることが出来ず、外へ行ってしまったとなると、とんでもない事態となるんです。それでどうしてもあれを探しだす必要があったのよ。そこまでいえば、あたしが何者であるかもお分りになるでしょう。もちろんあたしは尼さんでもなんでもないのよ。命令によって働いている婦人警官の小田春代という女なんですわ。あたしは特に選ばれて、すこし臭いハルピン虎を探《さ》ぐる係となり、黄風島へ出かけて尼僧に化けているところを貴方にお目にかかり、それからあの鍵をみて、それでこの大成功をおさめたのよ。しかしね、あたしはもうこの事件を最後に退職する決心ですわ」
「退職するって。そしてそれから後をどうするの?」
「さあ、どうしましょうかねえ、あなた……」
「……」僕は黙って傍の棚の上から島田髷の鬘《かつら》を下ろすと彼女の頭にかぶせた。するとそこにははっきりと鍵から抜けだした横顔の女が現われた。「これが結えるくらい髪が伸びるのを待って、君と僕との盛大な結婚式をあげようね」



底本:「海野十三全集 第2巻」三一書房
   1991(平成3)年2月28日第1版第1刷発行
初出:「富士」
   1936(昭和11)年4月号
入力:浦山聖子
校正:もりみつじゅんじ
2002年1月3日公開
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。


前のページに戻る 青空文庫アーカイブ