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寡婦の除夜
内村鑑三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)月《つき》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)我|衰《おとろ》へて
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月《つき》清《きよ》し、星《ほし》白《しろ》し、
霜《しも》深《ふか》し、夜《よる》寒《さむ》し、
家《いへ》貧《まづ》し、友《とも》尠《すくな》し、
歳《とし》尽《つき》て人《ひと》帰《かへ》らず、

思《おもひ》は走《はし》る西《にし》の海《うみ》
涙《なんだ》は凍《こほ》る威海湾《ゐかいわん》
南《みなみ》の島《しま》に船出《ふなで》せし
恋《こひ》しき人の迹《あと》ゆかし

人には春《はる》の晴衣《はれごろも》
軍功《いくさいさほ》の祝酒《いはひざけ》
我には仮《か》りの侘住《わびずまひ》
独り手向《たむく》る閼伽《あか》の水《みづ》

我《われ》空《むなし》ふして人《ひと》は充《み》つ
我|衰《おとろ》へて国《くに》栄《さか》ふ
貞《てい》を冥土《めいど》の夫《つま》に尽《つく》し
節《せつ》を戦後《せんご》の国《くに》に全《まつた》ふす

月《つき》清《きよ》し、星《ほし》白《しろ》し、
霜《しも》深《ふか》し、夜《よる》寒《さむ》し、
家《いへ》貧《まづ》し、友《とも》尠《すくな》し、
歳《とし》尽《つ》きて人《ひと》帰《かへ》らず。



底本:「内村鑑三全集3 1894-1896」岩波書店
   1982(昭和57)年12月20日発行
底本の親本:「福音新報」78号、署名(内村鑑三)
   1896(明治29)年12月25日発行
※「月清《つきゝよ》し」「星白《ほしゝろ》し」(底本p.273-1)を「月《つき》清《きよ》し」「星《ほし》白《しろ》し」にあらためました。
入力:ゆうき
校正:ちはる
2000年11月2日公開
2002年8月30日修正
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