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こぞうさんの おきょう
新美南吉

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 やまでらの おしょうさんが びょうきに なりましたので、かわりに こぞうさんが だんかへ おきょうを よみに いきました。
 おきょうを わすれないように、こぞうさんは みちみち よんで いきました。

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キミョ
ムリョ
ジュノ
ライ
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 すると なたねばたけの なかに うさぎが いて、
「こぼうず あおぼうず。」
と よびました。
「なんだい。」
「あそんで おいきよ。」
 そこで、こぞうさんは うさぎと あそびました。しばらく すると、
「やっ しまった。おきょうを わすれちゃった。」
と こぞうさんが さけびました。
 すると うさぎは、
「そんなら おきょうの かわりに、

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むこうの ほそみち
ぼたんが さいた
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と おうたいよ。」
と おしえました。
 こぞうさんは だんかへ いきました。そして、うさぎの おしえて くれたように、ほとけさまの まえで、

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むこうの ほそみち
ぼたんが さいた
さいた さいた
ぼたんが さいた
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と かわいい こえで うたいました。
 きいて いた ひとびとは びっくり して 目を ぱちくり させました。それから くすくす わらいだしました。こんな かわいい おきょうは きいた ことが ありません。
 そこで、ごほうじが すむと、だんかの ごしゅじんは すました かおで、
「はい、ごくろうさま。」
と、おまんじゅうを こぞうさんに あげました。
「ごちそうさま。」
と こぞうさんは おまんじゅうを いただいて たもとに いれました。
 こぞうさんは、かえりに その おまんじゅうを、さっきの うさぎに わけて やる ことを わすれませんでした。



底本:「ごんぎつね 新美南吉童話作品集1」てのり文庫、大日本図書
   1988(昭和63)年7月8日第1刷発行
底本の親本:「校定 新美南吉全集」大日本図書
入力:めいこ
校正:鈴木厚司、もりみつじゅんじ
2003年9月29日作成
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