青空文庫アーカイブ

がちょうの たんじょうび
新美南吉


 ある おひゃくしょうやの うらにわに あひるや、がちょうや、もるもっとや、うさぎや、いたちなどが すんで おりました。
 さて、ある ひの こと がちょうの たんじょうびと いうので、みんなは がちょうの ところへ ごちそうに まねかれて いきました。
 これで、いたちさえ よんで くれば、みんな おきゃくが そろう わけですが、さて、いたちは どう しましょう。
 みんなは いたちは けっして わるものでは ない ことを しって おりました。けれど、いたちには たった ひとつ、よく ない くせが ありました。それは おおぜいの まえでは、いう ことが できないような くせで ありました。なにかと もうしますと、ほかでも ありません、おおきな はげしい おならを する ことで あります。
 しかし、いたちだけを よばないと いたちは きっと おこるに ちがい ありません。
 そこで、うさぎが いたちの ところへ つかいに やって いきました。
「きょうは がちょうさんの たんじょうびですから おでかけ ください」
「あ、そうですか」
「ところで、いたちさん、ひとつ おねがいが あるのですが」
「なんですか」
「あの、すみませんが、きょうだけは おならを しないで ください」
 いたちは はずかしくて、かおを まっかに しました。そして、
「ええ、けっして しません」
と こたえました。
 そこで いたちは やって いきました。
 いろいろな ごちそうが でました。おからや、にんじんの しっぽや、うりの かわや、おぞうすいや。
 みんなは たらふく たべました。いたちも ごちそうに なりました。
 みんなは いい ぐあいだと おもって いました。いたちが おならを しなかったからで あります。
 しかし、とうとう、たいへんな ことが おこりました。いたちが とつぜん ひっくりかえって、きぜつして しまったのです。
 さあ、たいへん。さっそく、もるもっとの おいしゃが、いたちの ぽんぽこに ふくれた おなかを しんさつしました。
「みなさん」と もるもっとは、しんぱいそうに して いる みんなの かおを みまわして いいました。「これは、いたちさんが、おならを したいのを あまり がまんして いたので こんな ことに なったのです。これを なおすには、いたちさんに おもいきり おならを させるより しかたは ありません」
 やれやれ。みんなの ものは ためいきを して かおを みあわせました。そして やっぱり いたちは よぶんじゃ なかったと おもいました。



底本:「ごんぎつね 新美南吉童話作品集1」てのり文庫、大日本図書
   1988(昭和63)年7月8日第1刷発行
底本の親本:「校定 新美南吉全集」大日本図書
入力:めいこ
校正:鈴木厚司、もりみつじゅんじ
2003年9月29日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。


前のページに戻る 青空文庫アーカイブ