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SISIDO
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)所謂《いわゆる》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから4字下げ]
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○手帖、(やすものの人造皮の表紙)
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 その間から新聞の切抜
    カスト ダア
カストする(歯車でも何でも)そのキカイとカストとを二つながら製造する目ろみ、
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○「まだ関西にもこれはないそうですから いろいろ研究しているんです、しらんぷりして。」
○女房には「話しません、空手形はださない」

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〔欄外に〕
 昨年会ったときから見ると すっかり壮年的になっている。
 三十四歳。
○「夜店の大学を出たって平気ですよ」
○「つよい一面によわい」
「病気しませんねえ、相変らずコマコマしているが」
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 岩手の農民の息子
 北海道の鉱山
  父 事務所
  兄 シキに入る
 自分小学を出た位のとき トランセントをかついで山を歩く。
 十七の年上京、小学二三年上の友達をたよって。[#「友達をたよって。」に「給仕をしている。」の注記]くうに困って親に手紙を書いたら 親類教えてくれる
「親類があったんですよ」
 砲兵工廠につとめている。一年半ばかりゴロゴロ
 そこの妻君の兄のところへうつる、
 そこはい難いので夜だけ富士製紙のパルプをトラックにつんで運搬した、人足 そしたら内になり 足の拇指をつぶし紹介されて愛婦の封筒書きに入り居すわり六年(六十円)法政を出る、「あすこへ入らなかったら本当の職工でぐれちゃったかもしれませんね」

 かつぶし運送会社で南洋迄行ってカツオの研究をした
 土地会社 つぶれる<氷かつぎをやる
 ムジン会社 つぶれる。
       長崎まで行く
       たたき殺しちまうと代理店のゴロにおどかされる。
 其から又遊ぶ半年
 今度の箇人のケイエイの金原デンキに入る
 資本五十万円、箇人が大阪の××工業に売り 元のオヤジは専務、
 専務が細君のおじの友人
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レジスター 電気チクオン器の部分品、タイムレコーダー等、タイムレコーダー アメリカのイミで 国産より高いのでうれず
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「僕が一番売ってるんですよ 一年で二十二台ですからね 次のが十二台 あとは一台二台の程度です」
「僕は大阪にいいんです だから大抵大丈夫だろうと思うんですが――」
「月給七十円、べん当代30銭 足代が出るから助ります 朝出るとき一円ぐらいもって行ったって足が出ますからね そうすると書き出し(伝票)で貰うんです」
 一二年先へ先へと見とおしをつけなけりゃ困りますからね、真剣ですよ。
 三千円ぐらいなら出すひとがある。
「日日に林房雄が実業家のことを書いているんですね、
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一寸金がいる
どの位だ、五万円までなら出す
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って云っているんで、こんなひともいるのかなアと思いましたよ」
 聞いている方 それが本当の話だと思い だが、林がと変に思い
「林が? 林が出すって云ってるの?」
ときく
「いいや 誰だか」
「ああ、小説なの!」
 読んだひとには其が小説であるということなどぬきに、五万円迄は出すという そのことが大うつしになったのである。
 その焦点のきつさの驚き。
 私立大学出の程度の実業家というものの経路、
 自身の過去の人生経験に対する自信と同時にそういう休みない事情(資本ケイトウによってクビになる事)から来るあせり[#「あせり」に傍点]、性格的よわさ ずるさ[#「ずるさ」に傍点]の自覚
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〔欄外に〕
○「ポケットへさいそくのハガキを二三枚入れている位だから誠意がないことはないんです」
○湯浅にホンヤクをたのむ パルプのこと十五円という ああ十五円でさようならか、と思った。
 初め、調査部にひまな人がいたらやらせてくれないか、よし、それを宍が、五円ぐらい貰えると思い、じゃと湯にたのむ、月給が半年なくて丸ビルにいるつとめ人の心理
[#ここで字下げ終わり]

 三等の旅費が出る、
○「途中下車も出来ますしね
 この間静岡へ行ったときも熱海へまわって来ました もう二三遍行きましたよ」
 藤山雷太の息子の藤山×一郎が日本レジスターの新工場を大仁にこしらえたんで、そこへタイムレコーダー二台もって行って置いて来ちゃったんです
 六月ぐらいになったら売れるでしょう
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〔欄外に〕
○タイムレコーダー 五十人以上百人以上のところでつかう
 人のキライなものをうってるんですから 成績が上らないんです。そのために専務が十何年か前よそからひっぱって来た工場長をやめさせ ストになりかけ 宍が中に入ってまるめる[#「まるめる」に傍点]
[#ここで字下げ終わり]



底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年5月30日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:同上
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
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