青空文庫アーカイブ

先生の眼玉に
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)白い鬚《ひげ》を
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 子供が大ぜい遊んでいるところに雪がふって来ました。
「ヤアイヤアイ 雪がふって来た
 雪降れ ウント降れ
 塩になれ 砂糖になれ」
 とみんながよろこびました。
「砂糖になったらどうするか」
 と大きな声がきこえましたので、ビックリしてその方を見ますと、白い鬚《ひげ》を生やして、白い着物を着て、白い帽子を冠って、長いすきとおった氷柱《つらら》のような杖を持ったお爺さんが立っておりました。
 子供達はおどろいてそのお爺さんの顔を見ていますと、お爺さんはニコニコ笑いながらも一度、
「砂糖になったら何にするのか」
 と子供たちに聞きました。
「お餅につけてたべる」
 と三吉が答えました。
「お婆さんに嘗《な》めさせる」
 と忠太郎が言いました。
「お庭の蜜蜂にやる」
 と玉子さんが言いました。
 お爺さんはさもさも嬉しそうに、
「感心感心。お前たちはみんないい児だ。それじゃ塩になったらどうするかな」
 と尋ねました。
「先生の眼玉にすり込んでやる」
 と最前からだまっていた悪太郎が答えました。
 お爺さんは急に怖い顔になって、
「よしよし。のぞみ通りにしてやるからまっておれ」
 と云ううちに消え失せました。
 それと一所に、何も見えなくなる程真白に雪がふり出しました。
 三吉と玉子と忠太郎の処に降る雪はみんな砂糖でしたが、悪太郎の処には塩ばかりバラバラと降って、それが眼に入って痛くて堪らなくなりました。
 悪太郎は泣きながらおうちへ帰ってしまいました。



底本:「夢野久作全集1」ちくま文庫、筑摩書房
   1992(平成4)年5月22日第1刷発行
※この作品は初出時に署名「香倶土三鳥《かぐつちみどり》」で発表されたことが解題に記載されています。
入力:柴田卓治
校正:もりみつじゅんじ
2000年4月4日公開
2003年10月24日修正
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