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「乳房」創作メモ
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)所謂《いわゆる》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符二つ、1-8-75]
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 ◎大衆の中における各組織活動の未熟さ。
  (1)[#(1)は縦中横]活動分子がぬかれるとあともう何もなくなる。
[#ここから2字下げ]
 例、広尾車庫百五十人もいたのに、一人くびになったら、どうにも仕様がなくなった。外から職場の中に手を入れ難い。
 △世話役の養成の重要性がここにある。交代者がこれでつくれるのに。
 あれは、又俺はよく働いているという満足は真に組織的成果と云えぬ。
[#ここから3字下げ]
 人を動かすようにすること、これが組織力。
 その人がいなくなった後にどんな働きのキソがのこされているかということが成果である。
[#ここで字下げ終わり]

 労救、一九三一年五月結成。
    三二年の秋ごろから。弾圧。
[#ここから2字下げ]
 市電ストライキのときの活動によって。職場の中に人手がなかったので、独自的活動を生かさないで、アジプロのために働き、労救の組織は一つとしてのびぬ。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
○移動托児所。各車庫を中心としてもち、(ストライキのとき)組合の家族会の活動を支持するために托児所をもった。炊き出しのときおかみさん達の手をはぶくために。
  又、場所をつかわせた。組合の托児所と云われた。

  広尾で二十人ぐらい。上でおかみさんが集り、下で子供の托児所。
  荏原がやった。荏原が籐椅子カンパのとき二十何円もよこした。
  月給日には箱をぶら下げ、荏原托児所の子供にお菓子を買ってやりましょう。それで三円ぐらい入った。
[#ここで字下げ終わり]

 多摩川へのピクニック。
  費用 十二円
  子供 二十人
  お母さん達 七八人
[#ここから2字下げ]
 褓母は歩いて、水着をきせた。お母さん達が大よろこび。
「こりゃすっぱりだ!」
 市従から水の心得のある小父さんが来て世話をした。
 後で座談会をした。来年へ注文 父兄を多く、子供をも(赤坊もちも)つれてゆきたい。
[#ここで字下げ終わり]

 行商
  車庫の支部長に会う。
   アメ玉がいい。(車庫)
   小工場(カステラ、甘納豆)

 柳島
  十二月二十八日
 あしたいらっしゃい。午前十時にいらっしゃい。
 十一時になった。
 駄目ですよ!
 午後一時――三時半 この時十五円
 青年部の人が叫ぶ
  五銭。十銭。十五銭。
  支部長。五十銭。
   ‖
  運転手が多い。
 「俺の子供も欠食児童だよ」
 「まとめて救援してやるよ 出しな!」
 〔欄外に〕支部長がいいと云えば、市の役人がひっこむ。

 車庫。
[#ここから2字下げ]
一つの支部に組が八つある。組長(議長)副組長
一組四十人ぐらい。事ム所で会合する。普通は一ヵ月に一度 ストライキのときは毎日組会をひらく。支部長[#「支部長」に傍点]がすっかり出る。
[#ここで字下げ終わり]

 幹部派への不信任
[#ここから2字下げ]
一、こっそり申し上げたんだっていうぜ、
一、支部へ顔を出さない。
 ストライキをやるつもりか やらないつもりか、
 そりゃお前のこった。
 お前がやるかやらないかじゃないか。
 一寸俺あ質問があるんだ。支部長[#「支部長」に枠囲み]にききたいんだ。
 四十男
  国家社会主義とは何だ。
 ファッショ打倒反対だ。
 東交は政党、政治に関係なく、というじゃないか。
 これがはっきりしないうちゃ組合費を出さねえ。
 静かにねがいます 順々に云って下さい※[#感嘆符二つ、1-8-75]
[#ここで字下げ終わり]
 このような場合にでも、革反の活動が感じられず、青年車掌が不活溌であった。
 ――――――――――
 このときは移動托児所のアジプロのために。
 ○我々が働けるように家族会をやって進めて下さい。

 あずまで
[#ここから2字下げ]
栗原染工場 千名以上。
京モスへ出ている、
鉄工場へつとめている人をあつめて、むりやりに労救が中心になって各地区におけるストライキ応援委員会に出て貰おうとした。(先ず、アジプロしてから。という意見)
これはけられて(一度つれ出せば労働者のことだからわかる)
この前に父兄会をひらいて、労救の人をよび、市電ストのアジプロをしてと考えたところ、
社会キ構労働者連帯性について
漠然とこの托児所にかかずらわっていたら困るのではないか、と思いはじめた。
それから托児所へよこさなくなった。
一人よこさなくなると長屋グループがよこさぬ。五人ぐらい失った。
〔欄外に〕いつ首をキラれるか分らないという日常の不安。
――――――――――
一どきに何も彼も喋ってしまった。
托児所になじみが浅いのに。
[#ここで字下げ終わり]

 荏原では移動に力を注いで、うちをからにした。
 うちに一人おいて、外へ三人。
 市電のキキン募集に冷淡 応援委員会への話に対して、反応しない。
「さあこの頃はどうですかね、この頃は早ねをしてしまいますからね」
「出なけりゃいけないんですけれど、あいにくその晩親類に何々があって――」

 去年の秋。
 加藤勘十の労救の城南の懇談会をもった。
 渡辺さんが出た、
 大崎へひっぱられ、九十日間おいた、
 托児所へかえるな、それじゃいる、

 一月十九日の晩の父母の会。
 このときは古い人はとられ(四人)あずま、かめいどから応援 労救の人のおくさん。
 三人で子供十七人
 集ったものは七人 父二人、母五人 皆職場がある。

 藤倉
 ――足袋(百人)トラゴム
 印刷(行政学会印刷所)二百人
 田中製作所
 新興河上[#「新興河上」に枠囲み]
 保母三人、
 中心は、どうしたら保母をとりかえすか 弾圧をしないようにするのにはどうするか、
 十二月から十九日までの被害、その対策、報告を分タンして
 消費組合からしょうゆのこと[#「しょうゆのこと」に「を貰った」の注記] 米を二本
「お父さんお母さんたちに相談して貰いたいところは、」
「タクちゃんのお父さん」
「々のお母さん」
 ◎一人のこらず意見を出した。
 ◎散漫であるが、いろんな不平、
 警察へ押しかけて行ってたのもうじゃありませんか(田中皮工場へ出ている人の女房三十三ぐらいの女)
 うれしいのをこらえて、
「そうですねエ、それはいい考えだと思いますが、皆さんどう思いますか?」
「私はこう思うよ、」
 ビラを出してほかの工場でもオーエンして貰う
 大家の方へ交渉するようにしよう、
 褓母をもっと沢山ボ集しよう
 子供の数をふやし お父さんの数をませば警察がダンアツしたって大丈夫ですよ
 ○托児所のホ育費を上げよう
 ◎おむつを洗う石ケン代を一ヵ月十銭出そうじゃないか、
  それは、オーエンのときおむつを洗ったお母さんの意見、洗ったとき沢山いった。
 行政学会のおとうさんが
「やっぱり署長に行ってたのむしかないですね」
 屑やのお父さんも賛成。
 タビやのお母さんは
「警察のうらだから工合がわるいと思う」
 行政学会
「今そんなことを云っているときでないでしょう 私はやすんで行きます」
「私はどこでも行って云うからいつでも」
 行政
「あした金曜だから土曜日だったら、一晩とまったっていいよ、みんな都合はどうだろうね」
「じゃ警察へ行くことは決定したんですね」
「ああ、そりゃ きまったんだ」
 あさってというのは 一月二十一日のレーニン・デーだときがつき ハッとする、
「二十一日なら私 となりのおかみさんもつれてゆくよ」
「じゃおかあさん工場どうします(タビ)」
「私もじゃやすむ」
 ――――
「工場がひけてからがいい」
「その時分じゃもうひけていないよ」
 行政学会が 九時に行こう、托児所(八時半)
 こんどは褓母がいっちゃいけない。みんなだけでゆこう。
 屑やのお父さんがこの前、褓母を迎えに行った。そして誰にそそのかされたかときかれたから

「行くときのことを話さない?」
 大崎の特高の入口はせまい。下でぐずぐずさせちゃいけない、
「誰かあすこ知っている人居ない?」
 裏から入ることにする、
 話すことをきめる。
  一、褓母を早くかえしてほしい
  一、托児所のところへスパイが来ておどしたり、ものをもって行ったりしてくれるな。
 みんな話について一人一人が自分についての実験
 屑やのお父さん おいて行ったら迷子になった、
 そのあと、おしるこなどをのんだ。

 二十日、平常のとおり
「おばさん、時間ちゃんとね」
「大丈夫だよ」
「あしたよろしくね」

 二十一日、雪もよいの寒い風の日
 六時半ごろから子供をあつめる。
 屑やのお父さんが自転車で七時ごろ来る、
「おじさんどうしたんです タクちゃんは?」
 引こしがあってその荷もつを
 八時半までにつれて来る
「小母さん、じゃ煉炭に当ってて下さい ひぐまいさんが来ればすっかりそろっちゃうから」
 行くというのが父母が十三人 みんな子供をつれて行くということ。
「キットスパイが来るから 私のうちに行ってろ」
「留守たのむよ」
 という。

「何だ 何だ 何だ、お前たち何だ デモか?」
 先ず入って行ったおっかさんの頬っぺたを打った。
 屑やのお父さんが
「デモじゃない、私たちはおねがいに来たんだ」

「何故あんなことをするのか」
「あれは共産党だ」
「共産党って何ですか」
「共産党っていうのは××をたおして、国をやって行こうという つまりロシアのようなものさ」
「うちの赤坊なんかまだこんなで 赤だって黒だっていいよ、こういうのは托児所へあずけて居ない」
「お前一体なんだ?」
「私かい? 私はツナやだよ」
「つなやって何でい」
「ツナやも知らないバカヤロー、つなやってのはヨイトマケさ」
「托児所へあずけさせないんなら 私ァここへ子供をおいてくよ」
「お前たち子供が可愛くないか」
「可愛いからこそ五十銭なり一円なりをボーにしておねがいに来た」
「托児所は子供をわるくする、そんなに托児所がいるなら、自分たちでやれ。」
「だって金がないから、労救のようにやって貰う」
 デマをとばし
「総同盟のようなのならいい、あっちの人たちにやってもらえ」
 かえって「総同盟って何さ」と云う。

 九時から十一時までがんばり、行政学会のおかみさんにのこれと云う、七つの男の子をつれている。
「じゃ入ろう。坊や、じゃ二人で入ろうね」
「ウン」
 もう一人の若いお母さんは赤坊を背負っている。

 二十一日の朝 デモが出たあとへ文学新聞の人が来た。
 その人がかけて行って、警察へ入るのを見届けてかえって来て、
 一人のホボをつれて行っちまった。同時に文学新聞の二人、(地区の者です)つれてゆかれた。
 ――――――――――
 おっかさんの家で
 小学校三年生の男の子が様子を見てゆく。
「誰もいねえんだ」
 警察へ行って
「うちのかあちゃんや何かいない?」
「何だ子供のくせに! しばっちゃうぞ」
「何だ大根じゃあるまいし!」
 入って行って見ると総立ちに[#「総立ちに」に傍点]なっている。
「無駄だったよ」

 原っぱへ行こう、
 どこがいい
 真中がいいよ
 あしたっからどうする?
 私は褓母をさがし おっかさんがかわり番こに世話をすることにする。
 三月まで弾圧が来なかった。

 三月十一日に又三人やって来た。雪ふり。十四人子供がいた。デモにも行ったお母さん、笹井、私、労救の人。
「おやつの前で 今困るんですよ」
 二階からにげる
 〔欄外に〕新井光子はこの頃。

 二十日からいよいよひどい。
 四月一日――一杯新しい保母でやった。

 五月一日の日に 又つれて行ってしまう。
 品川労働者クラブの人を三人たのんでいて貰ったのにつれてゆく。
 五月八日頃 臨時の托児所をひらくことを長やで相談し、防衛委員会をつくろう、デモの効果を高めるために。
 たたき大工の人 私のところは六畳二間で上に友達がいるが話は分るからそこをつかおう。
「じゃ褓母の人はどうしますかね」
「サア どうしましょう」
「二階の六畳をすっかりあけて、先生たち二人に泊って貰おう」
 七八人。私と渡辺。
 ここでは居住に結びつかないのでハンモン。
 すると、田中のお母さん(?)が新興の河上さんのところへ行ったら、ガサが来ていた、そこで臨時の托児所もこわれた。
 ――――――――――
 二ヵ月経った、何をしているか。
 ――――――――――
 朝六時――夜六時 五銭四銭(おやつをふくむ)一ヵ月一円

 ――――――――――
*一月にはガスがない。
 一月七日までの休みを利用して家主が釘づけ。
 八日から釘をぬいて働きはじめる。

 労救と托児所との結びつき
  支部┌─┐ ┌─┐
    │ │→│ │托児所
  書記└─┘ └─┘
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
(一)[#(一)は縦中横]城南消費組合 広尾が全部。托児所の籐椅子をくれた。
(一)[#(一)は縦中横]市従の父が托児所の子供の親にいたか[#「市従の父が托児所の子供の親にいたか」に傍線]。
(一)[#(一)は縦中横]各托児所と応援委員会との関係。各托児所そのものの活動とオーエンとはどう結びついてその経験を研究し合ったか。
(一)[#(一)は縦中横]オーエンの頃 その頃土建[#「土建」に「中野」の注記]の人というのはどうしていたか。
 左翼の人はちっともかまってくれないの
 ハンさんは支持してくれるのに
[#ここで字下げ終わり]

 ○托児所の成り立ちと労救へうつってからの工合、周囲との関係、
 五月に労救
 ○一月十九日の夜は何人集り それは父母の何%か?
   半分  十八人 13[#「13」は縦中横]人
 ○防衛委員会の構成

 はじめと今との発展的相異は?
 ○一〇・三〇事件        \
 ○岩田労農葬(デモに高まった力?)〉と労救托児所との関係、
 ○小林労農葬          / アジプロ実際の影響
 ◎どうして、となりのおかみさん[#「となりのおかみさん」に傍点]がデモに入って来たか?
 ○褓母の具体的な闘争と人とについて。

 9月25[#「25」は縦中横]日
 緑と赤の「子供の家」に 「市電ストライキをオー援しましょう!」
   臨時托児所のこと

◎雨のふる日 しみじみ砂場がほしい
 ――――――――――
 おやつ一人二銭五リあて、
 ――――――――――
 四月 玄関先のこわれたブランコのまわりの子供
 男の子も女の子も仲よく
「ここ工場にしようよ」
「うん、これあたいたちの工場にしようや」
「ブランコ工場だよ」
 女の子は手拭をかぶって働くまね。そのうち本当になおそうとして汗をかいてすっかり組立てた。
 ――――――――――
 お母さんへ!
 エプロンをかけてよこして下さい ズロースをはかせて下さい てぬぐいをもたせて下さい。



底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年5月30日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:同上
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

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