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序(『文学の進路』)
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)[#地付き]〔一九四一年一月〕
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 世界の歴史は大きく動いていて、日本の生活と文化文学も、この数年の間に示して来たうつりかわりを、これからは一層つよく広汎に現してゆくことだろうと考える。
 日本文学は、それが世界史的な規模で観られ、また生まれてゆかなければならないことを益々明白にして来ている。刻々の裡に最善をつくして生きようとしている私たちの意欲の表現としての文学は、昨日の文学をよりひろい歴史的な視野において見直すとともに、明日の世代の文化へと前進しなければならない。容易ならないその仕事のために、私たちの成長のための何かの善意のあらわれとして、試みられた努力の成果の一部がここに集められている。
 著者としてこれらの成果については謙遜ならざるを得ないのだけれども、今日文化の価値を知り文学を愛そうとするあらゆる人々の胸中の思いと、共に語るに堪えるだけの命は湛えていると信じる。波瀾の間に、より健全な文化への発展の希望は決して見失われていないのである。
   昭和十五年十二月
[#地付き]〔一九四一年一月〕



底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年5月30日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
初出:「文学の進路」高山書院
   1941(昭和16)年1月発行
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
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